文系DXスタジオ AMUのDXスタートアッププランは「業者に丸投げして、結局誰も使わなくなるシステム」を作るものではありません。 優秀なAI(Gemini)や使い慣れたWord、スマホで動くLINEを使い、 「自社で情報発信をコントロールする力」を身につけていただく伴走型インハウス支援モデルです。
「大輔さん、本当に厨房でパソコン開いて何やってるんですか?」 仕込みの手を止めたスタッフが、怪訝(けげん)そうな顔でカウンターの隅を覗き込んだ。 『たけなわ』の厨房、出汁(だし)の香りが立ち込めるその場所で、店主の大輔は包丁ではなくキーボードを叩いていた。画面に映っているのは、生成AIのチャット画面だ。
「いやさ、次の『プロジェクトちょっとだけ達成プラン』に付ける特製サワーのネーミングとプロンプトの調整をしてるんだよ。『ビジネスパーソンの右脳を刺激する柑橘(かんきつ)系の組み合わせ』ってAIに壁打ちさせたら、面白いアイデアが出てきてね」
大輔がやっていたのは、単なる業務の効率化ではなかった。彼は、店自体の運営にAIを組み込み、そのプロセスをすべて顧客に「公開」するインハウス(自社)プロジェクトを始めていたのだ。
「教わる側」から「一緒に実験する側」へのポジションチェンジ
なぜ、居酒屋の店主がAIを使いこなす姿をわざわざ見せる必要があるのか。 大輔には明確な狙いがあった。
ビジネス街の顧客たち、特に企画職やマネジメント層は、日々の業務で「AIをどう活用すべきか」「DX(デジタルトランスフォーメーション)をどう進めるか」という課題に直面し、頭を悩ませている。しかし、専門のセミナーは小難しく、教科書的な成功事例ばかりで実感が湧かない。
そこに、毎日通っている居酒屋の店主が、「生成AIを使って今週のおすすめメニューの構成案を作ってみた」「LINEの自動返信機能をGAS(Google Apps Script)で組んで、常連さんの好みを自動でタグ付けしてみた」と、泥臭い実験結果をリアルタイムで発表し始めたらどうだろうか。
大輔は、お店のLINE公式アカウントで、飲食店の裏側をそのままドキュメンタリーとして配信し始めた。
『厨房のAI活用日記:今週の失敗プロンプト』 〜ChatGPTに「ビジネスマンが泣いて喜ぶポテトサラダ」を頼んだら、めちゃくちゃ普通のレシピを出された件と、そこからどう修正したか〜
この記事が配信されるやいなや、お店のLINEは「既読スルー」されるどころか、ビジネスパーソンたちからの熱い返信で溢れかえった。
「大輔さん、あのプロンプトの組み方、うちのマーケティングのブレストでもそのまま使えるよ!」 「居酒屋がここまでAIをリアルに使いこなしてるなら、うちの会社ももっとやれるはず」
大輔は、単に酒と料理を提供する「おじさん」から、「最先端の文系DXを、街で一番泥臭く実践している共同実験者」へとポジションを変えたのだ。
自社体験という「最強のコンテンツ」が人を惹きつける
世の中の多くの店舗が犯す間違いは、LINEで「自社の商品(メニューや割引)」ばかりを発信することだ。しかし、顧客が本当に求めているのは、売るための広告ではなく、自分たちのビジネスや人生に役立つ「生きた情報」である。
大輔が発信した「居酒屋のDX体験」は、まさにその最高峰のコンテンツだった。
AIを使うことで、メニュー作成の時間が毎週4時間削減できたというリアルな実績
最初は的外れな回答ばかりで、プロンプトをどう改善したかという試行錯誤のプロセス
この「舞台裏(バックステージ)」を包み隠さず見せることで、お店に対する信頼残高は異次元のレベルへと跳ね上がった。
夜、『たけなわ』のカウンターには、大輔の「AI日記」を読んだビジネスパーソンたちが続々と集まってきた。彼らは席につくなり、ノートパソコンを開いて大輔に画面を見せる。
「大輔さん、ちょっとこれ見てよ。今、うちのチームで組んでるAIのプロンプトなんだけど、もうちょっと具体的なアイデアに落とし込むにはどう指示すればいいと思う?」 「あ、それなら、役割(ロール)の指定を『新進気鋭のWebディレクター』に絞ると、出力のキレが変わりますよ。うちのサワーのメニュー作った時がそうでした」
厨房とカウンターを挟んで、ビールを片手に本気の「AI活用法」の意見交換が始まる。そこはもう、ただの飲食店ではない。ビジネス街の最前線で戦う人間たちが、実践的な知恵を持ち寄る「オープンソースの秘密基地」と化していた。
DXの体現が、割引を過去のものにする
「店側がAIを使いこなし、それを価値として提供する」 この仕組みが回り始めたとき、『たけなわ』から価格競争という概念は完全に消え去っていた。
顧客たちがこの店を選ぶ理由は、「ビールが安いから」でも「駅に近いから」でもない。「ここに来れば、AI活用のリアルなヒントがあるから」「自分のDX脳が刺激されるから」だ。
「大輔さん、このお店で起きてる面白い化学反応、ここで終わらせるの本当にもったいないですね」 カウンターでサワーを飲んでいた常連の企画パーソンが、目を輝かせながら言った。
「うちの会社、今度新しいプレスリリースを出すんですけど、お店のLINEやWebマガジンで、実験事例として紹介してくれませんか? ここに集まる人たちになら、絶対に響くと思うんです」
大輔は、手元のグラスを見つめながら、ニヤリと笑った。 居酒屋の厨房で生まれた小さなAIプロジェクトは、今や顧客たちを巻き込み、街のビジネスを繋ぐ「ローカル・メディア」へとその姿を変えようとしていた。