文系DX AMUスタジオのDXスタートアッププランは「業者に丸投げして、結局誰も使わなくなるシステム」を作るものではありません。 優秀なAI(Gemini)や使い慣れたWord、スマホで動くLINEを使い、 「自社で情報発信をコントロールする力」を身につけていただく伴走型インハウス支援モデルです。
『AI時代の地方生存戦略』連載第2回
地方の書店やビジネスホテルのロビー、あるいは自治体の広報コーナーに行けば、必ずといっていいほど「地域密着」を謳う地方新聞が置かれている。彼らの媒体資料を開けば、「発行部数〇万部」「県内カバー率〇%」といった景気の良い数字が並び、あたかも地域社会の隅々にまでその情報が届いているかのような印象を受ける。
しかし、メディアのプロや元業界人の視点から見れば、これらの数字がいかに虚飾に満ちたものであるかは「公然の秘密」である。
新聞業界には古くから、広告主へのアピールや組織の面目を保つために、実際に読者の元に届いている部数(実数)よりも遥かに多い数字を公表する「公称部数」という商習慣が存在してきた。だが、人口減少とデジタル化、そして容赦ないコスト高騰が押し寄せる令和の今、この公称部数と実数の「乖離」は、もはやお化粧で隠しきれるレベルを超えている。
連載第2回となる本稿では、ある地方県紙(仮名:A新聞)をモデルケースに、新聞社の経営数字を「月商」と「購読料」という冷徹な計算式で因数分解する。そこから浮かび上がるのは、私たちが思い描く「大メディア」の虚像を打ち砕く、あまりにも小さく切ないローカル一般紙単体のリアルな経済規模である。
1. 10億円企業の「着ぐるみ」を剥ぎ取る
まず、A新聞を発行している新聞社(仮に「甲社」とする)の全体像から見ていこう。
甲社の直近の決算や公開されている事業規模を眺めると、売上高は約10億円、従業員数は100名前後という数字が見て取れる。地方都市における「新聞社」としては、いかにも中堅どころとして立派に経営が成り立っているように見える。
だが、この「売上高10億円」という数字をそのままA新聞の戦闘力(経済規模)だと誤認してはならない。ここには、新聞経営の舞台裏を知らなければ見落としてしまう、巨大な「着ぐるみ」が含まれているからだ。
甲社の売上高を支える最大の柱は、地元向けの一般紙であるA新聞ではない。実は、同社が全国展開している水産・流通業界向けの専門紙(仮名:みなと専門紙)の存在である。BtoB(企業間取引)に特化した専門紙は、全国の漁協や水産商社、加工業者といった強固なコア読者を抱えており、解約率が極めて低く、専門広告の単価も高い。甲社全体の収益を実質的に下支えしているのは、この全国区の専門紙なのだ。
さらに、甲社の自社工場では、中央の全国紙(読売・朝日など)や大手宗教新聞の「受託印刷(委託印刷)」も行っている。輪転機を遊ばせないために他社の新聞を刷ることで得る、数億円規模の受託収入がこの10億円に上乗せされている。
つまり、
【全国向け】みなと専門紙の購読・広告収入
【他社から】全国紙などの受託印刷収入
これら「A新聞とは無関係の売上」をすべて剥ぎ取ったとき、純粋なローカル一般紙としての「A新聞単体」の売上高は、多く見積もっても4億〜5億円程度、すなわち月商にして約4,000万円という極小の規模にまで縮むのである。この月商4,000万円というリアルな数字こそが、すべての逆算のスタートラインとなる。
2. 算数で導き出す「実質3,000部」の衝撃
では、月商4,000万円のビジネスとは、具体的にどのような内訳で成り立っているのだろうか。
新聞社の伝統的な収入構造に倣い、この4,000万円が「購読料収入(読者から)」と「広告収入(企業から)」で綺麗に半分ずつ、つまり各2,000万円で構成されていると仮定して、シビアな逆算を行ってみよう。
現在、A新聞の月ぎめ購読料は税込で約3,400円である。
もし、新聞社本体の口座に毎月ストレートに2,000万円の購読料が入ってくるとするならば、必要な購読者数は以下の計算になる。
$$20,000,000円 \div 3,400円 \fallingdotseq 5,882部$$
「約5,800部」。これだけでも、公称数万部を掲げる地方紙の看板からは程遠い数字だが、現実はさらに容赦がない。なぜなら、読者が支払う3,400円がそのまま新聞社に入るわけではないからだ。
新聞を各家庭に届けるためには、地域の新聞販売店(合売店)を通す必要がある。販売店へ支払う配達手数料(マージン)や諸経費を差し引くと、新聞社本体に残る「正味の購読料(卸値)」は、一般的に販売価格の5〜6割程度にまで落ち込む。
仮に1部あたりの社内実利を2,000円とすれば、月2,000万円の購読料収入を維持するためには、実質1万部が必要となる。しかし、A新聞が置かれている地方都市の人口激減と紙離れのスピードを鑑みれば、純粋な一般家庭での有料購読数が1万部を維持できているとは到底考えにくい。
となれば、残る選択肢は一つ。分母(部数)が足りない分、分子である「広告収入(月2,000万円)」を付き合いや義理で必死に穴埋めしているか、あるいは実際の発行部数は5,000部はおろか、県内全域で実質3,000部程度にまで落ち込んでいるか、のどちらか(あるいはその両方)である。
県内全域で3,000部。これを山口県のような広大な地方都市の自治体数で割ってみれば、その凄惨さがよくわかる。本社があるお膝元の中心都市でこそ数百〜千部単位で読まれているかもしれないが、そこから一歩外に出れば、1つの市や町における一般家庭の購読数は、わずか数十部から数百部。
「下関を除けば一般家庭にはほとんど存在しない」と言われる地方紙のリアルは、この単純な算数によって完全に証明されてしまうのである。
3. なぜ「3,000部」のメディアに広告が出るのか?
ここで一つの疑問が生じる。一般家庭に実質3,000部しか届いていないメディアに対して、なぜ毎月2,000万円もの広告収入が集まるのだろうか。ネット広告の世界であれば、月間3,000PV(ページビュー)の弱小ブログに大金を払う企業など絶対に存在しない。
ここに、地方新聞というビジネスの「最後の生命維持装置」がある。
A新聞の紙面を広げてみると、掲載されている広告のほとんどが、地元の有力企業、建設会社、産廃業者、あるいは地方銀行、そして「お悔やみ欄(葬儀広告)」で占められている。
これらの企業は、広告の「投資対効果(何人に届いて、何個売れたか)」を期待して金を払っているのではない。彼らが払っているのは、広告費という名の「地域社会におけるお付き合い代・顔見せ代」である。
「県紙」という伝統的な看板に対して、あるいは地元の経済界・政界のネットワークを維持するための「会費」として、毎月、毎年決まった額の広告枠を買い続けているのだ。特に地方の土着企業にとって、新聞にお悔やみ広告や年頭あいさつ広告を出すことは、地域社会における自社の健在ぶりを示す「お作法」にほかならない。
つまり、A新聞の広告収入は、メディアとしての「伝達力」で稼いだものではなく、過去の遺産である「権威」と「人間関係」によって引き出された、実質的なインフラ維持のための協賛金(ドネーション)なのである。
4. 「小さな経済規模」を見抜いた者が勝つ
月商4,000万円、実質3,000部のローカル一般紙。この数字を見て、「なんだ、地方新聞はもう虫の息ではないか」と嘲笑うだけで終わる経営者は、二流である。
一流のビジネスパーソンは、この剥ぎ取られたリアルな数字から、「自分たちが仕掛けるべき、新しいローカルビジネスの圧倒的な勝機」を見出す。
考えてもみてほしい。
特権意識にあぐらをかき、無駄なプライドと巨大な組織(働かない年配社員や輪転機の維持費)を抱えた地方新聞社が、月商4,000万円を必死に切り崩して茹でガエルになっている。
一方で、もしあなたが、AIとITを駆使した「筋肉質な少数精鋭の組織」を立ち上げたらどうなるだろうか。
重たい印刷工場も持たず、記者クラブへの見栄も捨て、Google Sitesや汎用DTPツール(Wordなど)を使い、地域の中小企業のインハウス(内製化)情報発信を支援するメディアコンサルティング事業を始めたとする。
その事業が目指すゴールを「年商5,000万円(月商約400万円)」に設定してみよう。
月商400万円を稼ぐために、新聞社のような「お付き合いの広告」に頼る必要はない。地域の熱意ある専門店やBtoB企業20〜30社と深く繋がり、月額10万〜15万円の「オウンドメディア運用・編集インハウス化支援」の契約を結ぶだけで、この数字は簡単に達成できる。
気づくだろうか。あなたが作る小さなデジタルローカルメディア(あるいは汎用ツールによる地域誌)は、実質的な経済規模において、あの歴史ある「地方県紙(A新聞)」の単体戦闘力と、ほぼ対等かそれ以上の存在になれるのだ。
公称部数という虚像に惑わされ、「新聞社には勝てない」と勝手に諦めていた時代は終わった。
月商4,000万円というA新聞の本当のサイズ感を見抜いた瞬間、地方の古いメディア構造はガラガラと音を立てて崩れ去り、AI時代の新しいローカルパブリッシャーがその市場を丸ごとリプレイスする未来が、はっきりと見えてくるはずである。