文系DXスタジオ AMUのDXスタートアッププランは「業者に丸投げして、結局誰も使わなくなるシステム」を作るものではありません。 優秀なAI(Gemini)や使い慣れたWord、スマホで動くLINEを使い、 「自社で情報発信をコントロールする力」を身につけていただく伴走型インハウス支援モデルです。
『AI時代の地方生存戦略』連載第5回
地方の新聞社やローカルメディアの命運を分けるのは、編集・ジャーナリズムの質だけではない。それ以上に、企業の舵取りを担う「経営陣の出自と経営思想」が、組織の寿命を直接的に左右する。
前回まで、地方県紙や地域単独紙(夕刊ローカル紙)が直面している凄惨な部数減少と、コミュニティ崩壊の実態をデータと構造から逆算してきた。これほどまでに破綻の足音が近づいているにもかかわらず、なぜ地方メディアの経営陣は、抜本的な事業転換(ピボット)やデジタル変革(DX)へと舵を切ることができないのだろうか。
その致命的なボトルネックは、彼らのトップの多くが「広告営業出身者」であるという点、そして彼らが染まりきってしまった「過去の成功体験の呪縛」にある。
連載第5回となる本稿では、広告営業出身の経営陣が陥る「既存のパイの切り売り」と「お願い営業」の構造的限界を解剖する。そこから見えてくるのは、地方メディアを茹でガエルへと追い込む、経営層の深刻な「思考停止」の病理である。
1. 広告営業出身者が「お抱え社長」に選ばれる地方の力学
なぜ、地方メディアにおいて広告営業出身者がトップに就くことが多いのか。そこには、地方都市固有の、極めてドメスティックな政経界の力学が働いている。
新聞社のもう一つの主軸である「編集(記者)出身者」は、往々にして行政の不正を暴き、企業の不祥事に切り込むといったジャーナリスティックな正義感を持ちがちである。しかし、これは「地元の有力企業や自治体からへそを曲げられず、波風を立てずに付き合いたい」と願う新聞社の経営安定(あるいは地元の名士たちとの調和)という観点から見れば、時にリスク要因となる。
一方で、広告営業出身者は違う。彼らは長年、地元の主要企業や行政の広報担当者、地方銀行の頭取、政界の重鎮たちに頭を下げ、良好な関係(お付き合い)を構築することに心血を注いできた。 「〇〇社長にはいつも大変お世話になっております」 「今期の周年企画、ぜひ大きな枠で広告をお願いします」
こうして地域経済の「上流」にいる面々との潤滑油となってきた営業幹部は、経営陣や株主(地元の有力企業が名を連ねることが多い)にとって、極めて安全で、扱いやすい「お抱え社長」として最適なのである。
しかし、この「人間関係を維持する能力」と、「激変する時代の中で新しい事業を開発する能力」は、完全に別物である。ここに、地方メディアの悲劇の引き金がある。
2. 「既存のパイの切り売り」という単一思考
広告営業出身の経営トップが陥る最大の罠は、ビジネスの本質を「自社が持つ既得権益(紙面の広告枠)を、いかに高く、いかに多く売るか」という狭いフレームの中でしか捉えられない点にある。
彼らの脳内にあるビジネスモデルは、どこまでいっても「紙面の切り売り」という単一思考(シングル・トラック)だ。
部数が減って広告の費用対効果が落ちれば、紙面の中に新しい「特集企画(例:地元のリフォーム特集、シニアの健康特集)」をデッチ上げる。
地元の有力企業を1社ずつ回り、「御社の社長インタビューを半ページ枠で掲載しますから、協賛金として〇十万円お願いします」と枠を埋めていく。
これは、一見すると積極的な営業活動に見えるが、本質的には「沈みゆく船の甲板のスペースを、形を変えて売り捌いているだけ」の、その場しのぎの延命策に過ぎない。
彼らが売っているのは、クライアントの売上を伸ばすための「マーケティングの成果」ではなく、新聞社の体面を保ち、輪転機を回し続けるための「義理の枠」である。AIやSNSの台頭によって、世の中の情報流通の仕組みが根底から覆っているというのに、彼らの関心は「今月の紙面の空白をどうやって埋めるか」という、ミクロな帳尻合わせに終始してしまう。
3. 「お願い営業」が招く、ハングリー精神の完全な喪失
さらに深刻なのが、「地元の付き合い」に依存した「お願い営業」が、組織全体の営業センスやハングリー精神を徹底的に破壊していく点だ。
かつて、地域のフリーペーパーや新興の求人誌が台頭した時代、彼らには守るべき看板も、付き合いのある大企業もなかった。だからこそ、「どうすれば地元の小さな衣料品店にお客を呼べるか」「どうすればこの居酒屋の求人に人が集まるか」を、クライアントと一蓮托生になって死に物狂いで考えた。成果が出なければ即座に契約を切られるという、ヒリヒリした市場の競争原理の中にいたからである。
しかし、伝統的な地方紙の営業は、その競争原理から最も遠い場所にいる。「県紙」「地元最古のメディア」という権威をバックに、半分は「お作法」として予算を確保してもらう営業スタイルに慣れきってしまっている。
広告主が「もう新聞広告を出しても全く効果がない」と薄々気づいていても、 「いや社長、そこをなんとか、長年のお付き合いということで……」 「今期だけ、地域のインフラ維持のためにご協力いただけないでしょうか」
という、実質的な「情け乞い」の営業で予算を引っ張ってくる。これが成功してしまう(首の皮一枚つながってしまう)ことが、かえって経営層の危機感を麻痺させ、新しいデジタルビジネスへの投資や、組織の抜本的改革(輪転機の廃止など)を先送りさせる最大の要因となっている。彼らは「頭を下げる辛さ」には耐えられても、「自らのビジネスモデルを自己否定する恐怖」からは、徹底的に逃避し続けているのだ。
4. 今、経営トップに求められる「真の資質」とは
広告営業出身のトップを戴く地方メディアが、PR TIMESのような外部のプラットフォームと安易に業務提携し、送られてきたプレスリリースを自社サイトに右から左へ流すだけの施策(連載第1回参照)に走るのも、すべてはこの「思考停止」の延長線上にある。「汗をかかずに、既存の看板を使って手っ取り早くデジタルをやっている感を演出できる」という、営業的な小手先の思いつきに過ぎないからだ。
現在のAI時代において、地方メディアや、これからメディア事業に目を向ける地方の中堅企業に求められるトップの資質は、営業の「お願い力」ではない。「情報コンテンツの価値を再定義し、新しいビジネスのプラットフォーム(仕組み)をゼロから構築する、事業開発・DXのスキル」である。
もし、あなたがこれから「年商5,000万円の新規メディア事業」を立ち上げようとする経営者、あるいは次世代のリーダーであるなら、この古い営業トップの姿を強烈な「反面教師」にしなければならない。
売るべきは「広告の枠(パイ)」ではない。クライアント企業が抱える「情報発信ができない」「ファンが作れない」という根本的な課題を解決するための「インハウス(内製化)の仕組み」そのものである。
付き合いで数十万円の広告費をドネーション(寄付)してもらう関係性を変える。
クライアント企業に対して、「御社が自社で売れるニュースレターやWebメディアを運用できるよう、我が社の編集力とITの仕組みを提供します(コンサルティング契約)」という、対等で強固なBtoBビジネスへと転換する。
新聞社の営業トップが「あぐら」をかき、地元の社長室で頭を下げて既存のパイを奪い合っている間に、AIとデジタルツール(WordやGoogle Sites、GAS)をフル活用した新しいローカルパブリッシャーは、企業の懐に深く入り込み、彼らの「情報発信のハブ」としての地位を確立していく。
「お願い営業」の賞味期限が切れた今、地方のビジネスシーンで本当に生き残るのは、過去の人間関係に依存する無能な経営者ではなく、冷徹なリアリティ(シグナル)を見抜き、自ら新しい営業の仕組み(IT)を作り出せる者だけなのである。