文系DX AMUスタジオのDXスタートアッププランは「業者に丸投げして、結局誰も使わなくなるシステム」を作るものではありません。 優秀なAI(Gemini)や使い慣れたWord、スマホで動くLINEを使い、 「自社で情報発信をコントロールする力」を身につけていただく伴走型インハウス支援モデルです。
前回の記事では、旅館スタッフ自身が「現場の物語」を発信することの重要性についてお伝えしました。しかし、いざ「さあ、英語のサイトを作ろう」と意気込んでも、何から手をつけてよいか分からず、真っ白な画面の前で止まってしまうスタッフは少なくありません。
重要なのは、いきなりGoogleサイトの編集画面を開いてデザインをいじり始めることではありません。まず必要なのは、私たちの宿が持つ魅力を「外国人ゲストに刺さる言葉」へと再構築するプロセスです。今回は、AIを「編集長」として活用し、納得のいくコンセプトを導き出すための「壁打ち(対話)」の手法を解説します。
「情報」を「体験」に変える壁打ちプロセス
多くの旅館でありがちなのは、Webサイトに「スペック(設備や料理)」ばかりを羅列してしまうことです。しかし、インバウンドゲストが求めているのは、そのスペックが提供する「体験」の文脈です。この文脈を見つけるために、AIとの対話が不可欠です。
例えば、スタッフが持つ断片的な情報を、次のようにAIに投げかけてみてください。
「当館の料理は地元の〇〇漁港でその日に水揚げされた魚を使っています。これはすごいことですか?」
「当館の庭には樹齢100年の松があります。海外からのゲストにとって、これはどんな意味を持ちますか?」
すると、AIは単なる事実だけでなく、「それは『その土地の恵みを、その場所で味わう』という究極の地産地消の体験です」「日本文化の静寂と時間の重みを感じさせる、非常に価値あるコンテンツです」といった、「ゲスト視点での価値」を言語化して返してくれます。
このプロセスこそが、情報の「編集」です。単なる事実(情報)を、相手の心に響く文脈(価値)へと変換していく。このAIとの壁打ちを繰り返すことで、曖昧だった宿の強みが、次第にクリアな「コンセプト」として輪郭を帯びてきます。
AIを「編集長」として信頼する理由
なぜAIを「編集長」と呼ぶのか。それは、AIが私たちのバイアス(思い込み)を取り払い、客観的な視点を提供してくれるからです。
私たちは、毎日見ている風景や、当たり前のように出している料理に対して、その価値を過小評価しがちです。「こんなの、誰でもやっていることだから」という言葉は、インバウンドマーケティングにおける最大の敵です。AIは、私たちの当たり前を「それは日本ならではの特別な体験ですよ」と指摘してくれます。
スタッフが持つ熱い想いを、AIという冷静かつ広範な知識を持つ編集者が受け止め、一般の外国人ゲストが理解しやすい物語に整形する。この共同作業こそが、インハウスでDXを進めるための「黄金のタッグ」となります。
「編集する力」こそが、DXの第一歩
DXと聞くと、多くの人が「デジタルツールを導入して効率化すること」を想像します。しかし、文系DXスタジオAMUが考えるDXの本質は、デジタルツールを使って「情報の編集能力を飛躍的に高めること」にあります。
記事1で触れた「現場の物語」という資産を、AIという編集長を通すことで、世界に通用するストーリーへと昇華させる。この「編集」という行為は、特別なプログラミング技術を必要としません。むしろ、誰に、何を、どのような感情で届けたいかという「目的意識」こそが重要です。
壁打ちによって磨き上げたコンセプトは、Webサイトのトップページに掲げるメインメッセージから、予約サイトのわずかな一言に至るまで、すべての発信の軸となります。この軸がブレないからこそ、デザインに頼らずとも、一貫性のある「強いブランド」が形成されるのです。
明日からできる「AI壁打ち」の作法
まずは、宿にある「一番の自慢」を1つだけ選んでください。そして、ChatGPTなどのAIに対して、以下のプロンプト(指示)を試してみてください。
「私は日本の山口県湯田温泉で旅館を運営しています。この当館の〇〇というサービスを、欧米からの個人旅行者に響くような魅力的なストーリーとして紹介したいです。まず、このサービスのどんな点が外国人にとって新鮮で価値があるのか、私の壁打ち相手として客観的に意見をください。」
AIが返してきた回答に対して、さらに「それは面白いですね。でも、もっと家庭的な温かさを強調したい場合はどう表現すればいいですか?」と深掘りしていきます。この対話を15分繰り返すだけで、自分たちの言葉では見えてこなかった「宿の新しい魅力」が必ず浮かび上がってくるはずです。
「情報を編集する」ことができれば、デジタルの活用は怖くありません。自分たちが誇りを持って提供している価値を、相手の言語に合わせ、相手の感性に響く物語へと整える。AIという優秀な編集長とともに、まずは自分たちの宿の物語を言語化する練習を始めてみませんか。
次回は、そうして磨き上げた物語を、Googleサイトを使って具体的に「形」にする、超速実装のフローについて解説します。